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ダイヤモンド・オンライン 2012年8月30日
http://diamond.jp/articles/-/23993
山田厚史 [ジャーナリスト 元朝日新聞編集委員]
反日に走らす「韓流経済」の深き“影”
竹島の領有権を巡って韓国で反日感情が火を噴いた。
サッカーW杯の共同開催など雪解けを思わせた両国関係は急速に悪化した。
大統領選挙を控えた政治状況が「外に敵を作る」という安易な手法に政権を走らせたとも言われるが、愛国主義の背後には躍進する経済等の光に潜む深き“影”がある。
その光と影が韓国の自信と不安が渾然一体となった「臆病な自尊心」を肥大させ、苛立つ人々を反日へと向かわせているように見える。
■不平等の拡大でポピュリズムが台頭
まず韓国メディアが紹介する「韓流経済」の盲点を報告しよう。
ソウル聯合ニュースが4月23日、
「所得格差拡大でポピュリズム台頭の恐れ」
という記事を掲載している。
国策シンクタンク・韓国開発研究所(KDI)の分析を紹介し、
「1990年代前半まで改善に向かっていた所得格差がアジア通貨危機の前後から再び悪化している」
「一握りの人々だけが豊かな暮らしをしているという考えが広がり、ポピュリズムや保護貿易論が台頭する可能性がある」
と警告した。
報告書は技術進歩と製造業の海外移転が不平等を拡大する、と指摘した。
先端技術は高い教育を受けた層が有利で、低所得層は工場の海外移転で賃金が低下する。
中国やブラジルでは政府が所得の再分配に力を入れているが、韓国は教育・保険など公共サービス対する公的支出はGDPの8%に過ぎず、OECD平均の13%を大きく下回る、と「手薄な再分配政策」を問題にしている。
アジア危機で破綻寸前まで追い込まれた韓国は、IMF管理下で回復を遂げた。
輸出拡大を最優先にし、不安定な雇用、低賃金など弱者に犠牲を強いる結果となった。
新自由主義的な経済運営が伝統社会と摩擦を起こし、人々を苛立たせている。年功序列、先輩後輩、尊敬といたわり、といった儒教的モラルが崩れ、不機嫌な空気が充満している。
韓国政府は不平等の拡大が問題であるとは知りながらも、国内の苦境を輸出で打開する政策を下ろすわけにはいかない。
産業界・財閥と一体となって効率化・コスト削減に力を入れる。
ささくれだった人心をどの方向に誘導するか、それが政権の課題となり、「ポピュリズム」の標的を日本に向けた、ともいえる。
中央日報は6月28日、
「韓国人の93%が、10年後には所得格差が更に広がる、と見ている」
と報じた。
ソウル在住の25~54歳の524人に、資産運用会社のフィデリティがアンケート調査した結果だ。
アジア8都市で同時に行われた調査でソウルが最悪だった。
次は台北の87%。
8都市平均は76%。
ソウルでは
「10年後に自分の所得は上がっている」と答えた人は41%にとどまり、これも最悪。
67%が「子どもに譲る財産はない」と答えた。
■親の所得が増えれば子の英語力も向上
6月5日の中央日報では
「親の所得が増えれば、子の英語の点数も向上」
として、親の所得は子どもの学力に反映し、とりわけ英語で顕著だと指摘。
これはKDIの調査をまとめたもので、1ヵ月の所得が100万ウォン(約7万円)多いと、子どものTOEICのスコアは21点高い。
「所得格差と英語格差の連動」を立証している。
「英語に対する投資、海外研修などが、所得が高いほど多くなるために生じた結果だ」
と、分析した研究員はコメントしている。
韓国は日本と比べものにならないほどの「超学歴社会」。
大学の格が厳然とあり、出身大学で就職も左右される。
ソウル大学が最高峰だが、最近は大学だけではエリートコースを歩めない。
通貨危機以後、海外の大学でMBAやPh.D.を取得してキャリアを輝かすことが必要になった。
取材で韓国を訪れると、対応する広報や取材に応ずる若手社員のほとんどは、欧米の大学院を出ている。
急速な国際化で英語はエリートの最低条件。
その為に「母子留学」が社会問題になっている。
夫を韓国に残し、母親が子どもを連れて米国・カナダなどに渡る「逆単身赴任」が珍しくない。
格差社会の象徴とされるのがソウルの江南(カンナン)地区だ。
豪華なマンションが立ち並び高級官僚、医者、弁護士、金融マンなど所得や社会的地位が高い人が住んでいる。
ここに住むことが階層の高い人たちのネットワークに入ることにつながる。
金融緩和で膨張した資金が江南の不動産に流れ込み、地価は銀座を超えた。
勝ち組の暮らしを象徴する絢爛たる街が、ソウルの一角にそびえ立っている。
韓国ビジネスのエネルギーは、激烈な競争に勝ち残ろうとする家族の団結にある、
とも言われている。
その結束の対極で「職場でのイジメ」が問題になっている。
チームワークは昇進に不可欠な要素ではあるが、うわべは仲良しでも競争は激しく、いきおい弱い者、馴染みの薄い人を皆で虐める。
「アイドルグループのイジメの現実、すでに根深い事実」
という中央日報の記事は、イジメの背景に所得格差があることを報じている。
「あの子だけギャラが高い」とか「後から入ってきてただ乗りしている」などといった金銭や待遇への不満が、イジメの根っこにある。
これは芸能界のユニットだけの現象ではない。
職場単位で売り上げや収益を競うビジネスの世界で日々起きていることだ。
■海外から見る韓国経済の強さ:国内に及ばない恩恵
皮膚感覚で触れる韓国経済にはトゲがあっても、遠目に見る経済活動には力強さがある。
中央日報の東京駐在記者は
「ソニー、トヨタから市場を奪うサムスンやヒュンダイを誇らしく思う」(2010年3月)
と韓国企業の躍進ぶりを讃えていた。
20年前の日本はDGPで、韓国の11倍だったが今は5.3倍まで追いついた。
半導体、テレビ、携帯電話、造船で日本を抜き、自動車や鉄鋼でも差は縮まった。
日本で「韓国に学べ」という声も聞かれる、と書いている。
「韓国に学べ」は韓国メディアが好んで取り上げる話題で、ヒラリー・クリントン国務長官がエジプトで反政府デモを指導した若手リーダーを米国に招待し、「韓国をモデルに」と助言したという消息筋の話を伝えるなど、「自画自賛」が目立つようになった。
日本の背中が見えるまで追いついてきた経済が、メディア、政治指導者に自信を与えている。
アジアで圧倒的な存在感があった日本は20年にもわたる経済停滞にあえぎ、政治は混迷している。
「たいした国ではない」と思うのも自然だろう。
サムスンはソニーとパナソニックを併せ持つ規模になり、技術でも凌駕したという自負がある。
自動車のヒュンダイがトヨタを抜く日がやがてくる、という期待も膨らんでいる。
だが、誇らしく思う韓国ビジネスの成功は別世界の話で、財閥は庶民から遊離し、海外で儲けても恩恵は国民経済に及ばない。
「循環投資」という言葉がしばしばメディアに登場する。
財閥の中核企業がグループ会社の株を買い、その会社がまた関連会社の株を買う。
持ち株の連鎖で支配企業をどんどん拡大してゆく投資の手法を指す言葉だ。
サムスン電子の李健熙(イゴンス)会長は循環投資で13兆ウォンのグループ資産を握り、
ヒュンダイの鄭夢九(チョンモンク)会長は10兆ウォンを支配する。
財閥はオーナーの私物であるかのように富を抱え込む。
サムスンが日本を追い越したといっても、サムスンの対日取引は赤字だ。
スマートフォンが売れてはいるが、サムスン製品は日本では少ない。
逆にサムスンの製品が世界で売れるほど日本から部品、素材、製造機械などが流れ込む。
ヒュンダイの乗用車は米国で快走しているが、日本では全く売れず撤退した。
韓国がFTA交渉を積極的に世界で展開しているが、日本との交渉には消極的だ。
自由貿易で勝てる自信のなさが現れている。
自信を回復し胸を張ってみても、人々が豊かにならないから消費が振るわない。
低賃金をテコに海外に打って出るというビジネスモデルの結果だが、恐竜とアリしかいない殺伐たる製造業の構造。
その中間を埋めているのが日本の分厚い産業構造だ。
国内消費が振るわないから外需に頼るのは日本も同じで、その矛盾が熾烈に現れているのが韓国経済である。
サムスンの経営には学ぶところが多いが、財閥イコール国内生産体制という韓国モデルは、学ぶどころかきわめて危い。
■指導者が代わるころを見計らって関係を修復する
日本にとって韓国はいいお客様で、韓国も日本との円滑な取引なしに発展は望めない。
その現実を知りながら、李明薄(イミョンバク)政権はポピュリズムに火をつけてしまった。
現状への鬱積を燃料に燃え盛る愛国主義はしばらくブレーキがきかないだろう。
中国と同じ轍を韓国は踏んだのである。
似た状況にある日本国内でも偏狭なナショナリズムが勢いづいている。
感情の爆発を理性で抑えるのは難しい。
煽ることで政治的得点を上げようという輩も増えることだろう。
竹島も背後には侵略の歴史や慰安婦問題など「歴史的認識」に絡む問題が控えている。
双方に言い分があり模範答案は誰も書けない。
時間をかけて歩み寄ってきた努力が、一気に吹き飛んでしまった。
「こうなったら米国に仲介してもらうしかない」
という声が出始めている。
中国や北朝鮮との関係を考えれば、日本と韓国が争っていることを米国は好まない、という主張だ。
日本に号令を発するのが仕事のようなアーミテージ元米国防次官補にお話を伺う、という日本メディアのいつのもやり方がまた始まっている。
漁夫の利をとるのは米国だろう。
民主党政権になって普天間基地を国外に移転しろなどと対米関係が冷ややかになったからこんなことになった、という声も上がっている。
いずれにしろ新しい大統領が決まるまで、韓国側は手を緩めることはできない。
米国も大統領選挙が終わるまで身動きはとれないだろう。
政治指導者が代わり、世論が沈静化するころあいをみて冷静な論議を開始するしかない。
領土は大事な問題ではあるが、生活のない島の問題で熱くなり、放射能汚染が暮らしをむしばむ原発問題が霞んでしまう危うさを思う。
領土で争って得をするのはいったい誰なのか。
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「指導者が代わるころを見計らって関係を修復する」
ということは、来年2月までは、つまりあと半年は厳寒期だということになる。
修復を計っても、結果が出てくるまで半年はかかる。
やはり1年はかかかるようだ。
【おもしろ韓国】
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